『水中都市・デンドロカカリヤ』安部公房

水中都市・デンドロカカリヤ (新潮文庫)
 安部公房が紹介されるとき「シュールレアリスム」という表現をよく目にしますが、この短編集は確かにそれをはっきりと感じられた。初期のものだからなのか、少し荒削りかな? という気もしたけど、まあ大したことではない。収録作品はどれも面白いけど、特筆したいのは「闖入者」で、これはすごく不条理な話。不条理は僕の好物ですが、この作品からは妙な気持悪さが受け取られて、つまりその不条理にリアリティがあるのだと思う。自分が(もしかしたら)ありうるかもしれない不条理な状況に置かれてもがく、という擬似体験を通して、日常的連続感の裂け目をのぞいたような気分になる。「詩人の生涯」はプロレタリアなんだけど静かで美しい世界で、これは宮沢賢治の影響なのかな。ただ今読むと安部公房っぽい理科的表現が気になりはするけど。個人的には「空中楼閣」が好き。