『其面影』二葉亭四迷

其面影 (岩波文庫 緑 7-4)

其面影 (岩波文庫 緑 7-4)

 『浮雲』がよかったので、というか、これ、『浮雲』と似てますね。雰囲気というか、設定と、扱っている要素が。ジレンマ、すれちがい、苦悩。この世は生きづらい。人間関係はどこまでも煩瑣なもの。周囲に対する扱いも巧くいかないのに、自分のふるまいまで思うとおりにいかない。暗いです。主人公の哲也は『浮雲』の文三くんよりも年食ってるし、作者の二葉亭四迷もその頃から二十年を隔てているので、重みも増している。これを読んでいると、“世界”は自分の意志ではなく、なにか大きな定められた力、いわば「物語」に沿って進んでいる、という感じがする。心情の微妙な揺れ動きの描写は確かなもので、すばらしい。