ピカチュウー!

それを見ている僕がどんな生活環境下にあるのかはあまり深く尋ねないで欲しいのですが、アニメ「ポケットモンスター」では、主人公サトシが自己紹介する際、「オレ、マサラタウンのサトシ!」よろしくな、と言います。ところでこの「マサラタウンの」という修飾語は一体どの程度の通用力があるのか、ということが引っかかったので考えていました。
辞書を引くと「タウン」すなわち「town」とは“町”ですね。だから前時代的に直すと、「オレ、マサラ町の聡!」というふうになります。しかしこれではこの自己紹介の通用度はひどく狭いものになると心配せざるをえません。なぜならサトシはポケモンマスターになるべく、全国を旅してまわっているからです。隣町の人間に言うならともかく、自分の住んでいる場所とはまったく懸け離れたところに生きる人びとに自己をプレゼンテーションしなければなりません。たとえば岐阜県の人間に「俺、函南町の洋介!」などと紹介したところで、彼がどんな背景を持った人間なのかは分かってはもらえません(函南町静岡県にある町らしいです)。全国を旅してまわっている以上、どこでも通用する自己紹介がほしいものです。
また、ゲーム中に登場する数箇所の「タウン」は、“町”というよりはむしろ“集落”というほうがふさわしいくらいに狭く小規模なものです。いや、“集落”でも大きいくらいです。なにしろマサラタウンには家が3軒しかないのですから(住民はサトシ含めて10人・1996年調べ)。ますますこの自己紹介の通用度が怪しまれます。
しかしながら、ポケットモンスターの世界におけるひとまとまりの共同体がなす範囲は、おしなべて小さいものです。カントー地方最大といわれる「タマムシシティ」(「シティ」は“市”なので大きいわけです、ただしこの世界には市をまとめる県というものが存在しません。もっと言えば国家というものの存在がまったく示されていません)でさえ――あいにく資料が手元にないのですが――、せいぜい100軒程度の建物からなる共同体でした。このような(私たちから見れば)小さいまとまりが「○○ばんどうろ」によって繋がれているのがポケットモンスターの世界です。ならば、ここで言う「タウン」や「シティ」は、私たちの言葉で「県」もしくは「州」と読み替えても差し支えないのではないでしょうか。こうして「オレ、マサラタウンのサトシ!」という自己紹介の通用力が確かめられました。ただし私たちが「俺、長野県の忠!」「俺、ミシシッピ州のジョン!」などと言うのがポピュラーな自己紹介なのかはわかりません。ポケモン社会の詳細な考察が待たれます(っていうかどっかにありそうですが)。